第17話
一方的に話しを続けるセリに、紗季乃は頭が上がらない。勝手に嫉妬したり、イジケたり。やっぱり自分は幼いのだと実感させられる。
そんな彼女に、セリが悪戯な顔を浮かべてチョイチョイと指を動かした。つられて顔を寄せると、耳元で暴露する。
「知ってる?けーすけとあなたとのファーストコンタクト」
「いいえ」
想像もしていなかったシーンに首を振ると、セリはやっぱりね、と鼻の頭にしわを寄せた。
「大学時代に、留学生の希望で日本舞踊の舞台を見せに付き添ったの。…その時のあなたの舞う姿にすっかり惚れちゃって、そのまま森流の門を叩いて仕事ゲットって訳。行動力があるにも程があるでしょって、当時はみんな驚いたわ」
――初耳だった。
きょとんとして、それからジワジワと耳が熱くなってくる。
彼は初めから、自分を見ていてくれたのだ。
「おい!余計なことを言うなよ、セリ」
まだそう時間も経っていない筈なのに、榊が紗季乃の後ろに立っていた。
さりげなく肩に置かれた彼の手が、なんだかこそばゆい。
「『余計なこと』じゃないでしょ。…まったく、けーすけは言葉が足りないのよ。これじゃ、この先が思いやられるったら」
口うるさいセリに、だが榊は素直に認めた。
「かもな」
降参、と両手を上げ、その手でそのまま紗季乃の腕を取る。
「じゃあ、望み通り“言葉”で言ってやる。お前もう邪魔だから帰れ。…俺たちはこれからデートだ。あ、礼にここは支払ってやったからな」
ブツブツ反論するセリを置いたまま、榊は紗季乃を引っ張っていく。
「ちょっ、榊さ…」
「稽古まであまり時間もないだろう。早く二人きりになろう」
一度止まって、不敵な笑みを浮かべる。
「俺は言葉足らずらしいからな。他の方法で、この口を使うさ」
人混みにも構わず、唇を奪うのだった。
恥ずかしさを感じる以上に、紗季乃は彼を手に入れた喜びに溺れる。
恋を始める二人を、春の強い風が通りすぎていった。
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