第14話

祖母の言わんとするところは理解していた。


 恋する男を想う幽霊となった女の慕情。その幽玄な美や儚さの体現。


 紗季乃は、ふと、榊を意識した。


 直接は見ないが、視界の端に彼を映す。すると、その横で生き生きとシャッターを押すセリの姿も入ってきた。こちらにレンズを向けながらも、なにかヒソヒソとおしゃべりしている。


 チクリ


 胸が疼く。榊が才能を認める女性の存在に。


 私も、ここにいる。


 紗季乃は榊に切なく願うのだ。私を見て、と。


 何か他のことを考えながら踊ることなど、彼女には珍しいことだった。


 タンッ!


 扇子を閉じる音がして、紗季乃は我に返った。ハッとして祖母を見ると、予想とは裏腹に満足げな顔の祖母がいる。


「…いい顔です。――どうしたのですか?続けなさい」


 紗季乃は一つ唾を飲み込んで、再び腰を落とした。

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