第3話
紗季乃より五つ年上の榊は、大学在学中から、この森家で仕事している。卒業後は紗季乃の送迎なども行うようになり、この頃は彼女と過ごすことが増えてきた。
某有名国立大学の出身でありながら、何故こんな仕事を…。呆れて訊いた時、榊は涼しげに答えたものだ。
『新しい物を作り出すことも面白いかもしれませんが、すでにある古い物を新しく変えていくこともまた、楽しいものですよ』
最初はピンとこなかったが、海外公演やオーケストラとの第九共演。マスコミを利用しての森流のアピール方法などを提案し、成功させる彼の手腕を間近で見ると、このことか、と納得するのだった。親族の中には眉を顰める者もいる。それでも榊の計画で生まれる多大な利益が、彼らの口に蓋をするのだった。
着物が馴染む日本家屋でカッチリとスーツに身を固め、誰も口答えできない祖父母に対してもはっきりと物事を意見する榊。
異種族でも見ている気持ちだった紗季乃だったが、それはやがて閉鎖的で不自由な世界を悠々と泳ぐ彼への憧れに変わり、それもすぐ恋心へと変化した。
でも、意地っ張りな紗季乃は“好き”が言えない。
コンプレックスの多い彼女は、告白する勇気が持てない。
180センチを超える身長や大学野球で鍛えられた筋肉質の肢体。顔立ちは彫りが深く芸能人のように華やかで、女性たちの目を惹きつけてやまない。そんな彼の周りには美しい大人の女性がたくさんいて、彼に釣り合うのは自分ではないことを彼女はよくわかっていた。
大人社会で虚勢を張る為に理屈っぽく意地っ張りに育って、胸も小さい日本人体型な子どもの私なんて、好きだなんて言っても、きっと軽くあしらわれるだけだもの――。
紗季乃は、そう結論を出す。
芸事も、恋も、ハードルは高かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます