第3話

小澤社長に呼ばれたと嘘をついたのは、これで四人目。


 まずは事務所の社長に。それからホテルの従業員に。その女性から社長が休憩するために用意してある最上階の部屋のことを知り、三人目のベル・ボーイに部屋まで案内してもらった。


 四人目は、秘書と思われる壮年の男性。


 培ってきた女優の実力で虚構を微塵も表に出さず、


「こちらで、いいのね?」


 婉然と唇を上げると、慣れた様子で席を外す旨を申し出た。


 女性遊びに、慣れた人ね。


 先ほど会場で見た精悍な小澤を思い出す。きっと、私は受け入れられる。


 そして、彼の“特別”にもなれるだろう。


 彼の隣に立つ、自分を想像する。真菜という女性に、日本を代表する女優の立場にいる自分に、小澤は最も相応しいと思えた。

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