第2話
オーダーしていたシャンパンゴールドのドレスは、満足な出来映えだった。
それを一番感じたのは、帝都グランホテルのパーティー会場で。
参加者の羨望と賞賛の眼差しは、女優自身と彼女のドレスに向けられていた。
ヌーディーなデザインでありながら、品は損なわずどこまでもゴージャス。
会場で会った服飾評論家が、そんな言葉でドレスを表現していた。
だが彼女もまた服に着られることはない。完璧に手入れされた肌と、美貌。それに加わる女性としての誇り。彼女はそこで、最も輝いていた。
「真菜」
事務所の社長が彼女を呼んだ。
「紹介しておこう。SAWAの小澤社長だ。弟さんは、化粧品のCMでお会いしたことがあるだろう?」
「ええ。小澤蓮太さんね。よく、覚えているわ」
とりわけ丁寧に頷いて、真菜は女優の顔を作った。
「はじめまして、で宜しいわよね?あなたのような印象的な男性なら、絶対に忘れるはずないもの」
真菜は膝を軽く曲げて会釈しながら、目の前に立つSAWAの社長に微笑む。
「私、伊藤真菜と申します。関山社長の事務所に籍をおいている女優です。ご存じなら、嬉しいのだけれど」
大抵の人間は、こう言われると『もちろん知っていますよ』と答える。『実物にお会いできるなんて光栄です』とも。
言い慣れたやりとり。言われ慣れた讃辞。
だが小澤は、興味もなさそうに頷いただけだった。
「パーティーを楽しまれるといい」
素っ気なさと、ぎりぎりの社交辞令に一瞬目を見開く。
だがその驚愕を苦笑に変えて、真菜は手に持っていたシャンパングラスを軽く上げた。
「そうするわ。小澤社長」
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