第33話

あ、キス。


 そう思って瞼を伏せるけど、触れたのは唇の中央じゃなくて、一番端のところ。


 それが、普通のキスよりもくすぐったくて悪戯で、私はちょっと動揺してしまった。


「いきなりキスするなんて」


 呆れたフリで見上げると、小澤さんはシャープな顎をくっと引いて「それは失礼」と余裕の笑みを返した。


 その後にまた口角へすれすれに触れるキス。


 そんな仕草一つで、私がどんなにドキドキするのか、この人はわかっていないのだ。


「そうやって好き勝手するキスは禁止です」


 つん、と私が澄まし顔で前をを向いても、私の赤くなった耳は小澤さんには隠せなかった。


 喉を鳴らして笑う小澤さん。


 この頃の彼は笑い上戸。


 そして機嫌がいいと、決まって私の口角に唇を落としてくる。


 機嫌が悪くても強引に唇を奪うけれど。


「何をしてたんだ?」


 後ろから私のお腹に両腕を回してきた小澤さんは、ちょっとだけ身を屈め、私の肩に顎をのせるようにして質問した。


「この木なんですが、どんなクリスマスオーナメントを飾ろうか迷ってるんです」


「ああ、玉を飾るやつか。この家ではもう何年もやってないな」


「絹代さんも蓮太さんもそうおっしゃってました。だから楽しみだけど、ちょっとプレッシャーで」


 そこでぐっと私を抱く小澤さんの腕の力が強まった。


「沢山飾ればいい。赤でも青でも、クリスタルでも。 ── ああ、そうだ。今からする感謝祭までのキスの数だけ、吊しなさい。この木が重みでたわむ心配はあるが」


 とんでもない思いつきに、思わず身体が縮こまる。そんな私に一つ目のキス。口角からそっと、それから冷えた唇に長く体温を分けるように。


「買いに行く。準備しなさい」


何を、だなんて恥ずかしくて言えなかった。

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