第32話

濃い緑。明るい緑。黄色みの強いもの、艶のあるもの。


 私は小澤さんの家に植えられた植物たちを気に入っている。



 

 小澤の家の庭は、定期的に業者が手入れに来てくれるのだけれども、玄関ちかくのコニファーは絹代さんがこまめに剪定している。その方法は指でつまんで摘み取るという根気のいる作業で、それが一番美しい緑を保つのだと教えてもらった。


 それを知ってから、私も時々数種類あるコニファーの剪定を手伝っている。


 今私が手を加えているのは、玄関ポーチから最も目立つ場所にある背の高いゴールドクレスト。


 慣れない手つきで作業する私を見かけた蓮太さんが、


「今年のクリスマスはこの木を好きなように飾ってごらん」


 と言ってくれた。

 

 それからはとりわけこの木に愛着が沸いて、手入れを怠らないようにしていた。



 11月の始め。寒さが増した日曜の朝。


 剪定の必要が殆どなくなったゴールドクレストの前で、私は腕を組んで唸っていた。


 そろそろ感謝祭の季節。それを過ぎたらクリスマスの準備が始まる。


 これをクリスマスツリーに見立てるとしたら、どんな飾りを吊そうか。

 

 ゴールドピンクのボールもかわいいし、シルバーのみで大人っぽいのもこの家には合うだろう。白いリボンに青いボールは?それとも水晶の形をしたオーナメントを?


 目を閉じてみて、想像してみる。


 …う〜ん、ここは、クラシカルな濃い赤でまとめようか。ちょっと奮発してライトも使う?


 考えはどんどん膨らんで、私は暫くそこを動けずにいた。


 すると、後ろからすっかり馴染んだ小澤さんの気配。


 小澤さんは当然と言わんばかりに私の横に立つと、身を屈めて私の唇に自分のそれを近づけた。

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