第34話

着替えを済ませると、コンコン、と部屋のドアが鳴った。


 開くと、こちらも外出の準備を終えた小澤さんが立っていた。


 ルーズに白シャツのボタンを開けて、その上から濃紺のカーディガンを着ているだけなのに、ドキッとしてしまう。


 外ではスーツ姿ばかり見ているからかもしれない。


「小澤さん、そういうのもカッコいい」


 思ったままを口にすると片手でドアを開いたまま、お礼、と言わんばかりに屈んで唇を落としてきた。


「これで、2個目」


 悪戯に笑うその顔が少年っぽくて、私はいつの間にか、小澤さんの「キスの数だけ、オーナメント」という恥ずかしいプランを、受け入れてた。


「行くぞ」


 促されて私は部屋を出る。


 それから小澤さんの運転する車に乗って、ショッピングに出かけた。



 「外商でもよかったが」、と小澤さんは私の腰に手を回す。


「こうやって出かけるのもいいな」


 ラフに放ったままの前髪の下、小澤さんの目が優しく細まった。



 私たちはゆっくりと百貨店を歩いていた。


 こんな場所でも小澤さんがSAWAの社長だとバレないのは、多分髪型と服装のせい。


 それから、指を重ねて手を繋いだり、小澤さんに腰を引き寄せられてひそひそお喋りしたりするから。


 まさか「小澤和臣」が、こんな場所で、こんな無防備に過ごしている筈はないだろう。


 そんな先入観からなのか、誰も声を掛けてくることはなく、彼は今“ただの男性”として私の横にいた。


 ただし、


“顔もスタイルも仕草も声もありえないくらい目立って格好いい、だたの男性”、だけれど。


 本当に、どうしてこんな人が私の隣にいるの?


 不思議でたまらなくなって、何度も彼を見上げてた。


「…どうした?」


 北欧の雑貨が並ぶショップで、ブラウンゴールドの丸いオーナメントを手にしていた小澤さんが、問いかけてきた。


「たまにびっくりするんです。どうしてこんなに素敵な人が、私と一緒にいてくれるんだろうって」


 小澤さんは手に持っていたオーナメントをコツリと私のおでこにぶつけてから、これも買うぞと小さく振った。中で響く鈴の音。


 足下のカゴの中には、もうすでに沢山のボールが入っている。


 今回の買い物で、彼が即決、豪快な買い方をするのが判明した。


 こんなに飾ったら、ゴールドクレストの細い葉先は全部駄目になってしまう。それを伝えたら、なんと小澤さんは3メートル近くある商業用のツリーをさっさと注文してしまって、今夜には届くことになっていた。


 結局玄関先のゴールドクレストはそのまま、ということになり。



 何故か、室内用のツリーの準備をしているのだけれども。


「次に行くぞ」


 アンティークも含まれる高価な商品とはいえ、センチュリオンカードで支払う彼に、店員さんが固まっていた。

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