第27話
──どうしてこんな事しているんだろう。
私はぼんやり考える。
校庭は静まりかえった校庭。二人きりの放課後。
私は柱に背中を押しつけられている。瞼を落とさなければ、夕陽が眩しい。
煉瓦作りの柱には、葉の色の濃い蔦が絡みついていて、数枚の葉っぱが顔の横で首を擽る。
それよりも意識を奪われるのは、私の両脇に手を置いて逃げ道をなくす小澤さんの意地悪な笑み。それから吐息。
私がそれに弱いと知っていながら、わざと彼は耳朶に唇が触れそうな位置で囁く。
「…こういう経験も、今の君には必要なんだろう?」
あれは冗談ですよ。
言い返してやろうと開いた唇は、一言すら言えぬ内に彼に塞がれてしまう。
キスは甘く、熱っぽい。
抵抗する気も起きなくて、私はそっと腕を伸ばした。指先に振れるうなじの髪の質感。さらさらとした直毛は、指に絡めてもすぐに逃げ落ちてしまう。その感触が気に入っていて、この頃よく指を動かして彼の黒髪を梳いてみるのだけれども。
自分のうなじで遊ぶ余裕をみせる私が気に入らないのか、思い切り深くなった口づけに、毛先を気にする余裕をなくしてしまった。
「…っ」
混ざる唾液に、身体が燃えていく。そうなって初めて、このキスが今日のお仕置きなのだと気付いた。
「も、やめ」
強引に顎を逸らし、キスから逃げる。
「学内キスの、感想は?」
溢れ出た唾液を指で拭われながら、私は頬を膨らませた。
黙っていてやろうかとも考えたが、そんな事をすれば倍の濃さとなってキスが降ってきそうで、素直に答えおく。
「きっとここを通る度に、このキスを思い出しますよ」
小澤さんはいたずら顔で笑った。珍しく声を伴った笑い方で。それだけで彼を許せてしまうなんて、私はどうかしている。
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