第22話
「それで、達樹はあなたに、学校を辞める相談を?」
「いえ。辞めるとまでは、聞いていませんよ。ただ私としては、この年齢を同世代の仲間と過ごすことも、とても意義のあることだと仲尾次さんに知ってもらいたいんです。──判っているのか?仲尾次」
言葉の最後は、私に向けられたものだった。何度も聞いたそれをまたここで話すのは、半分小澤さんに説得させようという魂胆なのかもしれない。
「課題に追われるのも、団体で学校行事に参加するのも、校内活動に力を入れるのも、今しかできないことなんだぞ?何ならここで恋愛の一つでもしてみろ。仲尾次の高校生活が変わるから」
ここで、小澤さんが足を組み替えた。
「──成る程」
さも興味深そうに相槌を打つ彼は、さっきよりも表情の温度が下がっている。
「…お話は、わかりました。私もあなたの意見に賛成だ。この子とはいくつかの事を話し合わないといけないらしい」
カチリと、目があった。何かを含んだ、威圧的な視線。そのことに気まずくなって身を小さくすると、今度はクスリと笑われた。そして明らかに、念を押す口調で確認された。
「話せば解決することだろう?」
「…そうですね」
引っかかりを感じながらも、私は教師の手前、おとなしく頷いた。
その後の話はほとんど聞き流してしまった。クラスの学力。雰囲気。その中で私がそこそこ頑張っていること。トラブルもないこと。それから成績。
気味悪い程順調に話は終わり、私と小澤さんは立ち上がった。
「今日はわざわざお時間を作って頂いてありがとうございました。仲尾次は案外意志が強い面がありますからね。やはりご家族との話し合いが一番大事かと思いますよ」
にこやかに頭を下げる岩切先生は、一仕事終えた後の軽くなった笑顔で呑気に笑う。きっと気持ちまで緩んでいるのだろう。
「ああ、先生。ここは私の母校でもありましてね。──懐かしい場所だ。達樹に案内してもらいながら、見学しても?」
「全然構いませんよ。会議があるので教員は席を外しますが、警備の巡回まであと一時間はあります。それまでは施錠もありませんから、どうぞ」
気持ちの緩みついでなのか、随分と軽い了承の返事が返ってきた。
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