第20話
二時間くらい待っただろうか。
途中喉の乾きを感じて販売機でお茶を買い、ついでにトイレも済ませたくらいで、後は自分でも驚くくらい集中していた。
テキストから顔を上げたのは、三回続くノックと、それからスライド式のドアが開いて私の保護者が入ってきたから。
「…そろそろ時間じゃないのか?」
感情を見せない平淡な口調でそう言って、小澤さんが見下ろしてくる。
予想とは違って穏やかな様子にほっとしながら、私は手早くテーブルに広がった本を片づけた。
「真面目に頑張っているようだな」
一番端にあった一冊のノートに指を置き、つつっと自分の方に引き寄せる。持ち上げることはせずに、そのままパラパラとめくる指先が、やけに大人っぽく見えた。ノートと小澤さんという似合わない組み合わせのせいかもしれない。
不思議な気持ちでその指先を眺めていると、小澤さんが手を止めてノートを返してきた。
「行くぞ。教科書は後で取りに来るといい」
まだ一言も話さないまま、数冊の教科書をテーブルの端に寄せて、私は慌てて彼の後ろをついて行く。公の場所では割と口数の少ない小澤さんだったから、この時はまだ、彼の不機嫌に気が付いていなかった。
入室どうぞと合図を送るように開かれた入り口。
会釈すらせずに教師の前に立つ小澤さん。
担任の方が年上ではあるものの、机を挟んで並ぶ様子は、立場が逆のようにも見える。
「はじめまして。仲尾次さんの担任をしております、岩切です。…まぁ、お掛け下さい」
この手の保護者には慣れているのだろう。さすがこの高校の教員だ。担任の普段と変わらない態度に、私はちょっとだけ感心する。
「しかし面談できてよかった。仲尾次さんの相談内容、実は私は賛同できなくてね。家の方がどう思われているのか、話を伺っておきたかったんですよ」
…訂正。感心なんてするもんか。
すぐにその話題を持ち出す担任は、多分彼なりに緊張しているようだった。普段の授業態度も、割と頑張っているテスト結果もすっ飛ばして、本題を話してしまうなんて。
私は横に座る小澤さんを恐る恐る見上げた。
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