第19話
帰り支度を終えて、廊下で待っている香澄さんたちと合流する為に、椅子を手で押して机に納めた。
鞄を抱えてドアを潜れば、じゃあ行こっか、と頷く二人。そんな彼女たちの横を、資料を手にした担任が通った。
「ん?仲尾次、お前今日面談だろう?」
内心『来た』と構えて、私は用意してあった言葉を口にする。
「家の者は全員忙しいらしくて面談参加は無理だから、…資料だけ持って帰ってくれって」
担任は首を傾げながら資料をパラパラめくる。そして紙の束の後半の方で指を止めると、
「いや。保護者からの希望通り、一番目じゃ間に合わないらしいから最終で組んであるぞ。よかったじゃないか」
今日の面談のスケジュールを開き、用紙を斜めにして私に確認させた。5時45分の枠に、いつの間にか私の名前が入っている。私の所だけ鉛筆の殴り書きということは、後から調整された証拠。…これだけで誰が面談に来るか判った私は、香澄さんと紗希乃さんに向かって両手を合わせた。
「アイスはまた、今度みたい」
「そうみたいね。いいわよ、今度ね」
紗希乃さんが面白そうに笑う。
「また次誘うね」
香澄さんが、同情に眉を下げて控えめに手を振る。
二人とも、三者面談をパスしようとした私のズルを知っていた。
「待ってる時間で課題でもしてろ。待機用に学年準備室は開けてあるぞ」
「──はい」
私は渋々その部屋に向かった。今日は面談最終日。クラスの人数によっては、昨日で終わったところもある。そのせいか準備室に人はいなくて、私はバランスの少し悪い作業用の長テーブルで一人、課題に取り組んでいた。
勉強は、どうにか付いていけるようになった。勉強の要領もよくなったと思う。本を開けば、何となく覚えるべきところ、掘り下げて理解しておくべきところが判るようになってきたから。
これなら、3年まで通う必要もないんじゃないか。
担任に相談したことを、小澤さんはどう思うだろう。
これが、面談案内のプリントを家に持ち帰らず捨ててしまった理由だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます