第13話

「まずは着替えだ。達樹、服を脱がすぞ」


 幼子にでもするかのように、Tシャツの裾を持ち上げて脱がせる。


「冷たいが少し我慢しろ」


 一々声を掛けるのは、彼女の為ではなく自分自身の為だった。


 いつもと違う達樹は儚く妖艶で、俺を困惑させる。汗をふき取ってやりながら、闇と月光に彩られた肌が俺を誘っている錯覚に陥った。


 かろうじて理性を保っていられるのは、未だ引かぬ彼女の熱のせい。


 病人であることを思い出して、慌てて新しい服を着せた。


『八嶋さん?…いてくれるの?』


 心細く震える声で、酷なことを言う。


「──ああ」


 逡巡の後、そう答えた。


『…なら、あのことも教えて』


 俺と目も合わせずに、小声でねだる。


 達樹は人形のような緩慢な動作で、窓から見える月に顔を向けた。


 宝石の瞳。


 琥珀と、月の蒼と、暗闇に変化する瞳孔の鼠色と。複雑に色が溶け合った、不思議な目。…どこを視ているのか。…誰を見ているのか。


『私は彼を殺した?』


 月から目を離さず、もう一度達樹は問うのだった。


『私はシバを許せない。だけどもし私が人殺しなら、私もまた同類』


 月に雲がかかったのだろう。達樹の顔が陰にくすむ。だが果たして、夜を走る雲のせいだけだろうか。


『教えて、八嶋さん。いつものように。──あなたが言うなら、私は信じられる』


 

 誰か俺の息の根を止めてくれ、と強く目を閉じた。


 達樹が見せつける、八嶋との絆。


 日常では一切そんな素振りを見せないくせに、弱りきった体で目覚めた深夜──ルナティックに八嶋を求める少女。






 誰か俺の心臓を止めてくれと、願った。

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