第12話

ベッドの横に椅子を寄せて腰掛けたまま、長い時間達樹を見ていた。


 どうやらその姿勢のまま眠っていたらしい俺は、鼓膜に届いた彼女の声で浅い眠りから覚める。


 顔を上げると達樹がマットレスの上で体を起こしていた。


 寒いだろうが換気が必要だと絹代さんが僅かに開けた出窓。カーテンは片側に寄せられ、月光がシーツに届く。


 その一部は達樹の横顔を青白く照らしていた。


「…悪い夢でも見たのか?」


 俺は腰を浮かせ、達樹のこめかみに張り付いた髪を直した。熱のせいだろう。うっすらと汗をかいている。


 ベッドの縁に移動し、絹代さんが用意したタオルで額やうなじを拭いてやった。ふわりと舞うリラックスを促すハーブの香り。絹代さんらしい心遣いだった。


「体を拭いて着替えれば、少しは寝やすくなる筈だ」 


 何も考えずに、通り一遍なことを口にした。


 だが、返ってきた言葉は、


『血が…ついてる?まだ落ちない?』


 まだ夢の続きをみているようだった。


 そういえば、さっきも英語だったなと気がつく。過去の嫌な経験から、神経質なほど英語を口にしない彼女には珍しい。


 寝ぼけているのか。


 俺はまた、軽くそう判断する。


 だが彼女の質問は続き、俺はそれが単純な寝言ではないことに気がついた。


『ヤらなければ、ヤられる。ヤらなければヤられる。…なら、私の行為は正しかった?』


 誰に話しかけているのか。達樹は宙を見つめたまま。


 否、宙すらも見ていない。


 空虚な瞳で、月光の粒子をその身にうけている。


 危うい様子に、気持ちがさざめいた。

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