第5話

唇を重ねたまま、私の舌の先を軽く舐める。それから下唇を優しく噛んだ。


「じゃあお前のキスは、何のつもりだ」


 お互いの表情が見える位置まで顔を離した小澤さんは、意地の悪い笑みを浮かべて私に首を傾げた。


 その事についてはもう何度も考えていたから、小澤さんほどではないにしても、わりとすぐ、口にできる。


「慰め…」


 私は瞼を閉じて、八嶋さんの喪失に戸惑ったあの夜を思い出した。発作みたいに孤独に怯えた夜。


 キスマークをなくしたくなくて暗闇に迷う私に、小澤さんがくれたキス。


 あれは、慰めるためのキスだった筈。


「契約」


 八嶋さんの赤い跡を失いたくない私に、小澤さんは契約をくれた。…私の中にいる八嶋さんごと──この人は引き受けると、いうことだ。


「包容」


 じわりと、目が熱くなった。


 それからは、キスキスキスの日々。それは──、


「強引、困惑、悪戯、安堵」


 ぽろぽろと、言葉たちが溢れ出てくる。

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