第4話

舌先も、その裏も、付け根も。さらにその奥さえも。小澤さんの舌の届く全てを彼は探り、──奪った。


 もう、押しつけられているのか、食まれているのか、噛みつかれているのか、行為の荒々しさに思考が弾け飛ぶ。


 ドンと勢いのまま両肩が壁にぶつかり、私はそのままズルズルと床に崩れ落ちた。


 それでも小澤さんは唇を離さない。手で頭部と背中をがっちりと固定したまま、体液をぐちゅりと混ぜ合わせる。


 座り込んだまま壁に張り付くように腰から逃げる私に多い被さるように、膝をついて唇を責める。


「っ…はっ」


 必死で顔を背け深く息を吸うと、また、口腔への蹂躙は再開された。


 どれくらい経ったのだろう。


 舌は痺れ、唇も腫れたように熱く麻痺していた。


「な、──んの、…拷問ですか──」


 息を乱しながら、私は金魚のように天井を向いて口をパクパクさせる。顎先から鎖骨へ、ツイッと唾液が一筋流れ落ちた。それを手の甲で拭う。


 小澤さんの顔が、見れなかった。


「このキスと、他のキスを比べるな」


 肩で息をする私に比べて、小澤さんは全く平然と、そんなことを言う。


「このキス──って…」


 考える力なんて、残っちゃいない。


「今のこれを、何だと思ってるんだ」


「──おし…おき?」


「違うだろう」


 私の鼻先に唇をあて、


「独占。欲情。執着。誇示。刻印。契約。束縛」


 そう言って、また舌を絡めてきた。

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