第3話

「!!」


 思わず目を見開く私に、もう気は済んだだろうとばかりに唇を寄せる小澤さん。


「いえ、あの、ちょっと!」


 両手で、彼の口を塞いでしまった。


 目元しか見えないけど、不快に眉間に皺を寄せるから、彼が苛ついているのは分かる。怒らせると厄介だと分かっていながらも、私は両手の堤防を下ろさずにいた。


「何がしたいんだ」


 ぐい、と私の両手首を捕まえて顔の横まで広げた小澤さんは、嘆息と共に私に尋ねる。


「このキス、意味、あります?誰かを傷つけるキスなんて」


 慌てた私は、訳の分からないことを口走った。



 ダンッ!!



 片手を激しく壁に打ち付けた小澤さんに、私の喉はひゅっと鳴る。顔のすぐ横でそうされたから、耳や頬に、風圧や音の余韻が残っていた。


「お…怒らないで下さいってば」


「苛ついているんだ」


 そして問答無用で──唇を奪った。



 

 それは土曜日の会社の昼休み。呼び出された社長室での一幕…。

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