第10話
「ドラッグを買いたい訳じゃないんだ」
声は思ったより低く、心地よい透明感があった。
「微弱薬物や、依存について論文の素材を集めていてね。今日は実際にどう浸透しているかを調べに来たんだ。何件かのショップにも誰か紹介してくれるかあったったんだけどね、どうもピンとこなかったから」
どうやらタツキの周囲にはあまりいないタイプの人間らしい。理由は彼女の想像とは違ったものだった。
どうしたものかと口を開きかけた時、彼はすっと右手を出した。手には名刺らしきカードがある。
目を落とすと、大学院大学研究準備室だとか、国立大学〇〇ラボラトリーだとかそれらしい名称がいくつか並んでいた。
「心配してくれたんだね。ありがとう。…えっと、ベビィTだったかな。僕は八嶋満(やしまみつる)。大学生だよ」
「…え?あ、はい」
明るい自己紹介に、タツキは唇を開けたまま慌ててペコリと頭を下げた。
それはタツキらしくないなんともマヌケなお辞儀で、黙って様子を窺っていたやんちゃな二人組は、そんな彼女に口笛を送った。周囲の音楽が大きすぎてその口笛はタツキの耳には届かない。それでも仕草でそれに気づいたタツキが非難がましく睨みつけると、彼らは音の波に体を揺らしながら愉快そうにその場を去っていった。
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