第4話

手際よくビール瓶を業務用の冷蔵庫に並べていると、カウンターの向こうから客たちが気軽に声を掛けてくる。


「Hi ベイビィT!」


「Hi ブランドン!ベイビィはやめてよ。この頃みんなが真似するんだから」


「ボーイフレンドが出来たらベイビィは卒業して、レィディになれるんだせ?」


「簡単に言わないでよ。じゃあベイビィでいいもん」

 

「こんにぃちわぁ、たつぅきぃ!」


「こんばんは、だよ。ステフ。もう夜になってる。ステフたちの時間だよ」


「おじゃましてるよ、タツキ。今日は『彼ら』来てるの?」


「かおりさん、いらっしゃい。今日はネイビィは少ないみたいだよ」


「っもう!マリーン(海兵隊)かネイビィ(海軍)かを訊いてる訳じゃないわよ!」


「あはははは。ごめんなさい。…でもとにかくフレッドはまだだよ」


 会話しながらも、タツキは手を休めない。カウンターのこちら側はまさに戦場で、割れたグラスの破片を建物裏に出すことから、ライムを形よく切ること、アイスの補充に、ダスターの洗濯。バーテンダーたちの手伝いは山ほど残っていた。


 忙しいけれど、その分時間が過ぎるのも早い。



 タツキは灰皿を洗いながら、ずり落ちてきた左袖を顎を使って器用に引き上げ、ついでに腕時計に目をやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る