第4話
「俺も随分警戒されたものだな」
淡々とした声だった。私はちょっと目を見開いたものの、背後にいる健吾さんを振り向くことはなかった。聞こえなかったフリを装うため。
その私の背中に、健吾さんは独り言のように呟いた。
「前回の発言を取り消す気はない。だが君を傷つけたなら、謝ろうと思う。すまなかった」
私は、一呼吸置いてから健吾さんの方を見た。
「いえ。落ち込んでいるのは確かですけど。多分それは健吾さんがどうこういうんじゃなくて、言われたことが事実だったから、です」
「なるほど」
「なるほど?」
無意識に反復してしまって、あっ、と指先で口を塞いだ。健吾さんは特に気を悪くした様子もなく、無表情のまま目線を操作パネルに移した。同時にポォンと柔らかな機械音が鳴り、扉が開く。そのままそこで話をするためか、健吾さんが"開く"のボタンに指を乗せた。
「7月18日、5時。南麻布でシュリンプパーティーがある。カジュアルな催しだが、雑誌の女性の両親も来る予定だ」
私は10階のフロアにカツンと足を踏み出しながら、健吾さんの言葉について考えた。具体的な場所とか女性の名前とか、伏せられてはいたけれど何のことかはわかる。ノルウェー大使館のシュリンプパーティー。それにアマリエさんと御両親が参加する。そういうことだろう。
「和臣との事で大きな動きはないが、彼女にはチャンスだろう」
…それは御両親と小澤さんを引き合わせる、という意味だろうか。それとももっと違うことが起きるということ?
「──君が望めば、連れていこう」
返事も待たずに、健吾さんは扉を閉めた。
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