第5話
また一つ、宿題が増えた気分だ。
私はゆっくりと歩きながら、恐らく私を快く思っていないであろう二人の顔を思い浮かべた。
健吾さんと、アマリエさん。
思わず溜息がこぼれる。
その日は結局夜まで落ち込んだ気持ちを引きずっていて、寝付けないだろうということがわかっていた。
だからそれは、そう、単なる思いつき。ちょっとした出来心。
木崎さんが、今日の小澤さんは着替えに戻れるかもわからないと言っていた。蓮太さんは沙羅さんとデート。そして絹代さんは自室として使っている小さな別棟に引き上げているのを知っていたから、私はそっと家を出た。
この頃穿くことのなかったダメージジーンズ。黒のタンクトップに上から着古したシャツを羽織る。ノーメイクで目深にかぶったキャップは、ホールで客から貰った物。足に馴染んだスニーカーに少し機嫌をよくして、私は駅まで歩く。
賑やかな場所に近付くにつれ、五感を刺激するのは、これから始まる夜の雰囲気。
夏に近い、温い風。建物横の暗闇と、眩しい看板のコントラスト。改札を通る人もまばらで、いつも通る場所なのに印象が違って見えた。
案内板で乗車券の金額を確認しながら目に映った大きな時計は、もうすぐ23時を超える。
帰りはタクシーかな。結構な出費かも。
そんな事を考えながら、天馬が教えてくれた場所を目指した。
その街に違和感を感じなかったのは、どこか懐かしい匂いがしたから。
ドレスドダウンした男の子。華やかなのにチープな女性。スーツ姿で通行人を呼び止める青年。酔って道路脇に座り込む人。彼のことなんて、誰も気にも留めない。
私は彼らの間を縫うように進む。時々は、電柱に打たれたプレートの地番を確認しながら。
そして探し出したのは、ここでは珍しくないド派手なピンクの看板だった。
桃尻大学
「──ホントにあったんだ」
思わず立ち止まって、店を仰ぎ見てしまった。
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