第92話

澪のすすり泣く声が、やけに大きく聞こえたような気がした。

久し振りに再会したものの、悲しみばかりが溢れているような。


「…そういえば、さっき澪のお母様に逢ったよ」


美咲の発言に、澪は美咲の方を見た。


「久し振りに逢ったけど、あの頃と変わらずに接してくれたのが嬉しくて。

 お母様の誕生日の事、覚えてる?」


「うん、覚えてる。

 お母さんが冗談で、『誕生日プレゼントは美咲君のスーツ姿を拝めればいい』って言ってて、それを美咲に言ったら、お母さんの誕生日に本当にスーツ姿で来てくれて。

 しかも薔薇の花束まで持って来てくれて。

 お母さんも、志帆も、半狂乱でヤバかったよね」


「澪だって半狂乱だったじゃない」


そう言って、美咲が笑った。

澪もつられて笑う。


「だって、久々にスーツ姿を拝めたし、格好良かったんだもん。

 あたしや志帆には、薔薇を1輪ずつくれて。

 お母さんの為に、お母さんの好きなグラタンも作ってくれたよね。

 凄く美味しくて、みんな喜んでた」


「あんなに喜んでくれると思わなかったから、照れくさかったけど凄く嬉しかったんだ。

 澪やありさ達にはしょっちゅう作ってたけど、澪の家族に作ったのは初めてだったし、上手く作れるか心配だった。

 けど、自分が作った料理を、『美味い』って言って食べてくれるのが、凄く嬉しくて」


自分が料理を好きで良かった。

しかし、その好きな料理で、運命を変えてしまったけど…。


「料理を食べて、お酒も飲んで、酔ったお母さんが美咲に襲い掛かったよね」


「あ~、顔にすっごいキスされたなあ。

 澪も志帆ちゃんも、ものっそい形相でキレたよね」


「だって、まさかお母さんがあんな事するとは思わなかったもん。

 志帆は志帆で、どさくさ紛れで美咲に抱き付いてたし。

 …思い出したら腹立ってきた」


「こ、この話はやめようか!

 うん、やめよう、なっ!」


危険を察知したのか、美咲は慌てて話を強制終了させた。

澪は何かを言いたげだったが、それ以上何も言わなかった。

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