第93話
それから暫しの間、思い出話に花を咲かせた。
ありさ、梓と遊園地に行った時、お化け屋敷に入り、お化けに驚きすぎたありさが、謎の叫び声をあげながら逃げた事。
梓が弟と久々に再会し、みんなで美咲の家に集まり、手巻き寿司パーティーをした事。
話が尽きる事はなかった。
どれもこれも愛しくて、楽しくて、話している間は笑いが絶えなくて。
あの頃の2人に、戻ったような気がして。
「楽しかったね。
小さな事でも沢山笑って。
どんな時も笑顔が絶えなくて、いつも腹が痛くなるくらい笑ってたよね」
天井を仰ぎながら、ぽつりと美咲が呟いた。
その横顔を、澪は静かに見つめた。
「馬鹿が出来る悪友がいて、大切な人がいて。
毎日が彩られていて、自分はきっと誰よりも楽しい学校生活を送れてたんだろうなって思った」
その横顔は儚げで。
「ありさや梓がいて、澪がいたから…。
みんながいなければ、あんな日々は過ごせなかったよなって…思うよ」
その横顔は寂しげで。
「…美咲はイギリスに行ってから、どんな風に過ごしてたの?」
澪の言葉を聞きながら、美咲は煙草に火をつけた。
部屋の中に、煙草の臭いが舞う。
「澪と同じで、環境や仕事に慣れる事や、新しい人間関係を築くのに必死だったよ。
がむしゃらに生きてた…なんて言い方は、格好つけすぎかな。
料理の修業も兼ねて向こうに行ったけど、『自分は何でここにいるんだろう』って、自問自答する事も少なくなかった」
煙を吐き出し、一息つき。
「新しい事に出逢えるのは楽しかった。
新しい料理を覚える事も。
言葉の壁は大きかったけど、たまにお客さんに『料理美味かったよ』って言ってもらえるのが嬉しくて。
向こうで出来た友達にも救われてた。
けど…満たされる事はなかった…」
深い溜め息をつくように、吸い込んだ煙を吐き出す美咲。
「友達と一緒にいても、上手く笑えなくてさ。
誰かに言われたな。
『美咲の瞳や笑顔には、いつも悲しみが溢れている。
いつか、本当の笑顔を見る事は出来るのかな』って。
それくらい、上辺だけの笑顔が当たり前になってたんだ」
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