第91話

「あたしがしっかりしなきゃいけないのは解ってた。

 でも、なかなか出来なくて…。

 苦しかったし、辛かった。

 美月さんにもたくさん迷惑を掛けちゃって。

 なるべく美咲の事を考えないようにしながら仕事をするようにして。

 暫くしたら、前みたいに美月さんと接する事が出来るようになった…」


鼻をすする音が聞こえた。

見なくても解った。

澪が泣いていたのは、火を見るよりも明らかで。


「ずっと寂しかった。

 ありさや梓が羨ましかった。

 大事な友達にまで嫉妬している自分が、凄く嫌だった。

 全部を投げ出して逃げたかった…けど、それも出来なくて…」


先程からずっと胸が痛い。

澪の言葉の1つ1つが刺さり、抜けないままだ。


「電話もメッセもしようと思った。

 少しでもいいから、声が聞きたくて。

 でも…あたし達別れたから、そんな軽率な事は出来ないから、結局連絡も出来なくて…。

 この3年間、ずっと後悔してばかりだった。

 離れ離れになっても、美咲の事を待ち続ければ良かったって…」


「旅立つ少し前に、イギリスに行く事を告げた私が悪い。

 澪に嫌われるのも、仕方がなくて。

 引き止める資格もないから、何も言えなかった…」


澪と目を合わせずに話しているのは、自分がしてしまった事への罪悪感からだろうか。

美咲の方を少し見るも、澪は視線を少し落とした。


「あの日…イギリスの話を初めて聞いた日…。

 美咲に大嫌いって言っちゃった事、凄く後悔してる。

 あんな酷い事を言いたい訳じゃなかった。

 頭の中が真っ白で、何も考えられなかった…。

 美咲、ごめんね。

 今更謝っても許してもらえないのは解ってるけど…」


膝の上に置いたままの手で拳を作り、強く強く握った澪は、その痛みを心に伝えているかのようで。


「私は…もう気にしてないから。

 私が澪の立場だったら、きっと同じ事を言ったかもしれない。

 それに、澪だけが悪い訳じゃない。

 そういう風にしてしまった、私が悪いから。

 いつもいつも、辛い想いばかりさせてごめんな…」

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