思い出は星の煌めきに似て

第85話

マンションを出て、駅の方に向かう。

相変わらず賑やかな駅の近くは、そろそろ仕事帰りの人や、学生達で溢れる頃合いだ。


今日は澪には逢えなかった。

明日は逢えるだろうか。

あのまま部屋で待っていても良かったのかもしれないが…。


いつも澪と待ち合わせをした喫煙所で、気持ちを落ち着かせる為に、花壇に軽く腰掛けながら一服。

澪から貰ったジッポで火をつける。


溜め息のように、吸い込んだ煙を大きく吐いた。

風に掻き消される紫煙を、ぼんやりと眺める。


これからどうしようか。

みどりちゃん達も帰ってくるだろうし、長居をするのは申し訳ないな。

美月のところに行くのは…ちょっとご遠慮するとしよう。


ビジネスホテルに泊まるか。

それかネカフェか。


色々と考える事がいっぱいだ。

仕事は美月に面倒を見てもらうとして、これからの事をちゃんと考えなくちゃな。


考えなくちゃいけない。

無論、澪との事を。

しっかりと向き合わなくちゃ。


こうしてここで煙草を吸っていると、澪と待ち合わせをしている気分になる。

あの頃が懐かしい。


私がこうして煙草を吸っていると、後ろから君が名前を呼んで。

振り返ると、君が嬉しそうに手を振りながらこちらに来て。

手を繋いで、2人であの部屋に帰って。


掌を見つめる。

君の温もりは、今もこの手に残っている。


許されるなら、もう1度抱き締めたくて。

もう1度、手を繋ぎたくて。


風が髪を揺らす。

結局金髪に戻さず、茶髪のままだ。

君が今の私を見たら、どんな反応をしてくれるんかな。


携帯が震えた。

取り出して見てみれば、『母ちゃん達、帰ってくるの明日だった!』とありさからのメッセージ。

短い返事を送信して、携帯をしまった。


ゆっくりと立ち上がる。

さて、とりあえずありさの家に帰るかな。

今夜は私が飯を作ろうか。


今何時だ?

腕時計を見ると、時刻はもうすぐ18:30になろうとしている。


のんびり帰るか。

途中のスーパーで、酒を買っていこう。

昨日もあんなに飲んだけど、3人で色々話ながら飲みたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る