第82話

いつか、自分にとって空港が悲しい場所じゃなくなればいいなと思う。

美咲の「さよなら」も、明日香の「さよなら」も辛すぎるものだ。


あと何度悲しみを味わえば、強くなれるのだろう。

いや、自分は果たして強くなれるのだろうか。

やっぱり貴女の優しさや、強さに憧れてしまう。


飛行機を降りると、夏と優とは途中で別れた。

お疲れさん会は、後日行う事を約束して。


電車を乗り継ぎ、地元の駅を目指す。

体は疲れのせいで少々怠いが、心は行きよりも軽くなった気がする。

それはきっと、この旅行のお陰だろう。


たった3日間の間ではあったが、いろんな事が一辺に起こり、心も頭もついていかない時もあった。

けど、結果的に自分の気持ちを再確認する事が出来たのだから、良くも悪くも必要な出来事だったのだと思う。


目的の駅に着き、電車から降りる。

あれ程寒かった冬はいつの間にか過ぎ去り、春を迎えたかと思えば、季節は夏へと流れていく。


今年の夏はイギリスに行こう。

貴女が住む場所へ。

バイトも頑張って、お金を貯めなくては。

休みの交渉は、美月さんにするしかない。


よし、スーパーに寄ってビールでも買おうかな。

たまにはワインも飲もうかな。

夕飯は作るのが面倒くさいし、出来合いのお総菜でいいや。

お母さんのところに寄ろうと思ったけど、疲れたから明日か明後日にでも行くとしよう。


お酒は全然飲めなかったのに、ありさ達と宅飲みをするようになってから、お酒に免疫がついてきた。

あたしがお酒をすいすい飲む姿を貴女が見たら、貴女はどんな反応をするだろう。

きっと驚くだろうなあ。


改札を抜けて駅を出ると、いつも貴女と待ち合わせをしていた喫煙所が目についた。

待ち合わせをすると、貴女はいつもあたしより先に到着し、あの喫煙所であたしを待っていてくれた。

花壇の端に軽く腰掛けながら、煙草を吸っていたね。

あたしが声を掛けると、こちらに顔を向けて、嬉しそうな笑顔を浮かべながら手を振ってくれたっけ。

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