第81話

「明日香は飾らなくても、十分魅力的だし、素敵な人だと思うよ」


素直な気持ちを言葉にして、明日香に伝えてみる。


「そのままの自分でいれる人に、きっと出逢えると思う」


そう、自分が出逢えたのだから。


「もう、無理しないで」


そっと微笑むと、明日香の瞳から涙が零れた。


「明日香は明日香でしょ?

 受け入れてくれる人は、きっといる筈だから。

 それがいつかは解らないけど、巡り逢えると思うから。

 確証はないから言い切れないけど、そんな気がするよ」


いつか明日香に素敵な人が現れたら、幸せになってほしいと願う。

飾らない笑顔で、生きていてほしいから。


「無理も我慢もしないで。

 明日香は素敵だよ。

 もっと自分に自信をもって。

 そして、自分に優しくしてあげて」


声を殺しながら泣く明日香の肩を、優しく抱き寄せる。


「辛かったよね。

 あたしはその辛さを解ってあげられないけど、今だけはあたしに甘えていいんだよ」


ふわりと香るシトラスの香りは、やっぱり懐かしくて。

いつか貴女があたしにしてくれたように、あたしも優しくしてあげたい。


暫く泣き続けた明日香は、漸く落ち着いたのか、澪から体を離した。


「ごめんね、ありがとう」


泣きながら微笑む明日香は、今まで見た中で1番女性らしく、とても綺麗だった。


「澪ちゃんに出逢えて良かった」


「あたしも明日香に出逢えて良かったよ。

 お互い色々大変だけど、頑張っていこうね」


まるで、昔からの友達のように接する事が出来たのは、2人の気持ちが和らいだからだろう。


夏と優と合流すると、手荷物検査場近くまで明日香が送ってくれた。

2人は挨拶を済ませると、先に行ってしまった。


「じゃあ、気を付けて帰ってね」


「うん、ありがとう。

 明日香も体には気を付けてね」


明日香から差し出された手を取り、握手を交わす。

見つめる明日香の瞳に、もう憂いはなかった。


「そろそろ行くね」


澪がそっと手を離す。

歩き出そうとすると。


「澪」


振り返る。

優しい笑顔を浮かべた明日香が手を振っていた。

同じように手を振ると。



「さよなら…」



そう告げた明日香は、背を向けて歩き出した。

自分も踵を返す。

歩き出してから気付いた。

涙が頬を濡らしていた事に…。

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