第78話

少しだけ、僅かな違いを見つけた。



『寂しいから一緒にいたいんじゃない。

 好きだから一緒にいたいんだよ』



貴女の言葉が脳裏に浮かんだ。


「…寂しいから一緒にいたいなら、きっとあたしじゃなくてもいいと思う」


ぽつりと呟いた澪の顔を、明日香は驚きながら見た。


「あたしは好きな人と一緒にいたいなって思うのは、その人の事が好きだから。

 寂しさを紛らす為なら、友達や家族と一緒にいれば紛らす事は出来ると思うよ」


「…澪ちゃん?」


そうだ、あたしは貴女と付き合ってる時に寂しさを感じなかったのは、貴女が想いや気持ちであたしを包んでいてくれたからだ。

どんなに喧嘩をしても、貴女と繋がっていると言う確証があったから。

そう、ただ一緒にいた訳じゃない。

「好きだから」一緒にいたんだ。


「明日香があたしの事を、好きになってくれたのは嬉しい。

 昨日明日香が言ってくれた事も、間違いじゃないと思う。

 あたしも…そろそろ前を向かなきゃいけない。

 いつまでも思い出ばかり見ていられない。

 うん、『今』をしっかりと見なきゃ…」


何かが吹っ切れたような気がした。

心が軽くなったような、そんな気もして。


「美咲と明日香は違う。

 それは最初から解ってる。

 ほんの3日前に出逢って、ここまであたしを思ってくれて。

 大切にしようって思う気持ちも、凄く伝わってくる」


明日香の手に、自身の左手を重ねた。


「10000本の薔薇よりも、1000万の星よりも、海より深い愛情よりも、欲しいのはただ1つ」


どうしてこんなに大事な事から、目を反らしてしまっていたのだろう。

灯台もと暗し?

違う、自分からちゃんと見ようとしなかったからだ。


ねえ、初めて手を繋いだ時の事を覚えてる?

真夏の夜の中、人混みで離れないようにと、貴女が差し出してくれた手は、暑さからか緊張からか、少し汗ばんでいたね。

そんな小さな事さえ、大切な思い出の1つなんだよ。


「あたし、もう迷わない。

 …もう逃げたりしない」


こんなに長い遠回りをしなければ、気付けなかったなんて。

自分の愚かさに、舌を巻きたくなる。


明日香の手を、静かにほどいて。



「あたしが愛してるのは、美咲だけ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る