第77話

お土産を買い終わり、昼食を済ませると、そのまま空港へと向かった。

この観光云々より、明日香との事が色濃く残っている。


単なる旅行の筈だったのに、大分予想外な出来事ばかりが起きた。

今もまだ、何処から整理をしていいのか解らないでいる。


夏と優に明日香に逢う事を告げると、2人は気を遣って席を外した。

出来れば一緒にいてほしかったが、明日香が気を遣ってしまうのは明白だ。


近くの椅子に座り、明日香が来るのを待っていた。

そろそろ到着するだろうか。

いつものような笑顔で、自分に逢いに来るのだろうか。


あの日の空港の出来事が甦る。

思い出してしまう。

1度も振り返らなかった貴女は、あたしに背を向けて歩いていたけど、どんな顔をしていたのだろう。


涙が邪魔をして言えなかった「行かないで」

言葉に出来なかった「独りにしないで」

伝えられなかった「置いていかないで」


貴女の最後の言葉が、耳に届いた時の悲しみ。

伸ばしかけた手を、そっと下ろして。

遠ざかっていく背中を、ただ見つめる事しか出来なくて。


もう戻れないのかな。

貴女に「さよなら」をしなきゃいけないのかな。

そんな思いが浮かぶ。


俯いていた顔を上げると、少し離れたところに明日香を見つけた。

にこにこしながら、軽やかにこちらに手を振っている。


「いや~、空港は広いね。

 迷子になりかけちゃったよ」


照れくさそうに話す明日香に、そっと微笑みかける。

明日香が澪の右隣に腰掛けると、明日香は澪の右手を取り繋いだ。


「もう帰っちゃうんだね。

 まだまだ案内したいところ、たくさんあったのにな」


澪の顔を見ないまま、独り言のように話し出す。


「今度は1週間くらいこっちにおいでよ。

 自分、車の運転出来るから、遠出もしよう」


頷くばかりで、上手く声が出なかった。


「寂しいな。

 もっと一緒にいたいのに」


苦笑いを浮かべる明日香の横顔を見る。


「どうしても寂しくて、我慢出来なくなったら、澪ちゃんのところに行ってもいい?」


「え?」


「寂しい時は一緒にいたいじゃない」


苦笑いを浮かべたまま、澪の方をちらりと見る明日香。

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