第76話

旅行最終日。

今日はお土産を買うのがメインだ。


昨夜はあれから3人で色々話した後、布団に潜ったがなかなか寝付く事が出来なかった。

些かの眠気に包まれながらも、優と夏の後ろを歩く澪。


心がもやもやする。

まるで、濃霧がかかったかのように。


美咲か、明日香か。

2人の顔が浮かべば、切なさが押し寄せてくる。


1人で抱えるには大きすぎる問題。

自分の問題なのだから、しっかりと向き合わなくてはいけない。

が、自分だけで解決するのは難しい。


ありさや梓が聞いたら、どんな顔をするだろう。

驚くだろうか。

それとも、「美咲に対する気持ちはその程度だったの?」と言うだろうか。


いろんな感情が沸き上がる。

それらに対し、どんな処置をすればいいのだろう。


携帯が震える。

上着から携帯を取り出す。


『今日帰って来るのよね?

 お土産は明太子ね。

 あと、地酒もよろしく』


母親からのメッセージだった。

適当に返事を送り、携帯をしまおうとすると、再び携帯が震えた。


『おはよう。

 今日で旅行は終わりだよね?

 見送りがてら、逢えたらと思ってる』


明日香からのメッセージ。

とりあえず、飛行機の時間を記載し、携帯をしまった。


明日香も優しくて、温かい人だと思う。

真っ直ぐで、相手の事をよく見ている。

きっと大切にしてくれるだろう。


昨日、もし抱き締められたら…。

自分も抱き締め返していただろう。

美咲とは違う温もりに、安らぎすら感じてしまっていたかもしれない。


気持ちが分かれる。

今、2人に手を差し伸べられたら、どちらの手を掴むのだろう。


自分が好きなのは誰だろう。

美咲?

明日香?

気持ちが解らなくなる。

泣きたくなる。


美咲に対する気持ちは薄れてしまったのだろうか。

ありさや梓の前で、「待つ」と言ったのに嘘になってしまう。

自分の気持ちにすら、薄情になっているのだろうか。


全てを投げ出したところで、何も解決しないのは解っている。

いつかは必ず、対峙しなくてはいけない問題だ。

それなのに、確かな気持ちを持てない自分がいる。

そんな自分に、僅かながら憤りを感じる。

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