第75話

「とにかくさ、お互いの気持ちを確かめなきゃなあ」


夏が呟く。


「あたしが勧めておいてなんだけど、美咲さんを選ぶか、明日香さんを選ぶかは澪次第だね。

 澪の気持ちは?」


急に振られた質問に、戸惑ってしまう。

どちらを選べと言われても…。


「あたしは…」


口を紡いでしまう。

どうすればいいのか解らない。


「明日香さんは結構グイグイ系だもんね。

 答えを急ぐ事は、流石にしないとは思うけど…。

 明日香さんの事も、ちょっと意識し始めてるのも事実なんでしょ?

 でも、美咲さんの事も忘れられない…。

 天秤にかけちゃいけないんだろうけど、かけたくもなるよね」


心が、気持ちが揺れる。

美咲に対し、あんなに気持ちが溢れていたのに、今は明日香に対する気持ちが生まれ始めている。


「焦って答えを出す事じゃないから、じっくり考える時間も必要だと思うよ。

 大切な事なんだからさ。

 うち的には、明日香さんと付き合った方がいいと思う。

 やっぱり、ちゃんと傍にいてくれる人の方がいいと言うか…」


傍にいてくれる人。


「3年ってさ、短いようで十分長いじゃん?

 例えばこの先再会したとして、その空白の時間や、出来てしまった溝って埋める事は出来るんかな。

 なかなかどうして、難しいと思う。

 だったら心機一転、明日香さんと新しい気持ちで付き合うのもありなんじゃないかなって」


夏の言葉が、澪の心に直接響く。


「出逢いってきっと必然なんじゃないかなって思う。

 明日香さんに出逢った事にも、何かしら意味はあるだろうし。

 悪い人でもないだろうしさ」


「夏は明日香さんをごり押しだね」


「うちは澪に幸せになってほしいだけ。

 辛い想いをしてきたなら、尚更そう思うよ。

 心から笑う澪を見たいし」


黙ったままの澪の頭を、手を伸ばしぽんぽんする夏。


「うちも優も、澪の事が好きだからさ。

 大事な友達だもん、幸せを願わない筈がないよ」


自分にとっての『幸せ』とは何だろう。

考えた事もなかった。

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