第71話

戸惑い。

何から理解していけばいいのか、解らずにいた。

まだ出逢って間もない人に色々言われて、付き合わないかと持ち掛けられた。

頭の中がぐるぐるする。


「いきなり過ぎる話なのは解ってる。

 困らせてるよね、ごめん。

 けど、言いたい事は言う質(たち)なんだ」


気付いた時には、明日香が澪の左手を握っていた。


「強引なのも解ってる。

 だけど、今の澪ちゃんはこれくらいしないと伝わらないかなって。

 美咲の事を忘れろとは言わない。

 でも、澪ちゃんを思う人は、他にもいるって事を知ってほしい。

 …もう、悲しまなくていいんだよ。

 泣かなくていいから。

 自分が傍にいるから、もう独りじゃないよ」


気付いた時には、涙がぽろぽろと零れ落ちていた。


「強い言葉ばかり言っちゃってごめん。

 思った事を言わせてもらった。

 自分の言葉が何処まで澪ちゃんに届いたかは解らないけど、君には君の人生があるんだから。

 美咲だけが全てじゃないだろ?」



違う

違うの

あたしには美咲が全てなの

美咲じゃなきゃ駄目なの



握られている手が震える。

涙は止まらないまま、言葉も発する事も出来ないまま。

そんな澪に、少しだけ顔を近付ける。



貴女と同じ香りが漂う

貴女と違う声が聞こえる



「もう、1人で抱え込まないでいいんだよ。

 もっと甘えていいんだ。

 強がる必要も、元気なふりをする必要もない。

 そのままの澪ちゃんでいていいんだよ」



心が何かを叫んでいるのに、聞こえないのは何故だろう。

頭に浮かぶ貴女の顔が、声が霞むのは何故だろう。



「美咲の代わりになるつもりは毛頭ない。

 自分は自分だから。

 いつかちゃんと、澪ちゃんが自分に目を向けてくれるように頑張るよ。

 どんな事だって出来る。

 それくらい、澪ちゃんに惹かれてる。

 誰にも取られたくない…」



耳元で囁く声が、胸を熱くさせる。

胸が苦しくて、切なくて、壊れてしまいそうな程だ。

自分はどうすればいいのか、解らないままでいる。

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