第70話

「その美咲って人、今まで連絡1つ寄越さなかったんでしょ?

 そして、澪ちゃんも連絡をしなかった。

 お互いに傷付くのが怖かったのかな。

 そんで、お互いの現状を知るのが怖かったとかさ。

 美咲と付き合ってた頃が、どんなに素敵だったかなんて知ったこっちゃないけど、好き合っていた割には随分淡白だね」


何も言い返せない澪は、きつく口唇を噛み締める。


「本気で美咲の事を思うなら、逢いに行く事だって出来たじゃない。

 それすらもしなかったのは、心の何処かで美咲を諦めてたからじゃないの?

 そんな自分を認めたくなくて、目を反らしてたんじゃない?」


胸に冷たい何かが流れたような気がした。

そんな事はない。

自分はずっと、美咲だけを思っていた。

想い続けてきた。


「もうやめたら?

 そんなん純愛でも何でもないよ。

 ただの独りよがりじゃん。

 時間の無駄だよ」


何処か冷めたような言葉を、澪に投げ掛けていく。


「ちゃんと現実を見なよ。

 澪ちゃんの隣には、君が望む美咲はいない。

 それが答えじゃん」


聞きたくなんてないのに、無情にも言葉が耳に届く。


「もう戻れないんだよ。

 だったら、前に進むしかないじゃない。

 思い出にさよならを言う時なんじゃないの?」


思い出にさよなら…?


「美咲よりもいい奴なんて、いくらでもいると思うよ。

 例えば、自分とかさ」


悪びれた様子もなく、さらりと発する明日香は、相変わらず何を考えているのか解らない。


「自分は好きな人に寂しい想いなんてさせないよ。

 自分勝手で好きな人を独りになんかさせない。

 美咲よりも幸せにしてあげる自信がある」


「何言って…っ」


「悪いけど、冗談じゃないよ。

 初めて見た時から、好きだなって思ったんだ。

 自分の隣にいてほしいと思ったから」


「あたしは貴女の事を好きになる事は…」


「そんなん、付き合ってみなきゃ解らないじゃん。

 今すぐ好きになれとか、自分を受け入れろなんて言わないよ。

 時間がかかってもいい。

 美咲以外の人間に、目を向けてよ」

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