第69話

「別れてからも、ずっとそうやって思い続けるって、なかなか出来ないんじゃないかな。

 そんなに好きだったなら、別れなきゃ良かったのに」


別れたくて別れた訳ではない。

目指す場所が違っていた。

明日香の言葉に、胸がチクリと痛む。


「自分が思うに、澪ちゃんは綺麗な思い出にすがってるだけなんじゃないかな。

 いつまでそうしてるの?」


その言葉に目を見開く。


「…貴女に何が解るって言うんですか?」


振り絞った声が震えている。


「何も解らないから、こうやって言えるんだよ」


それはそうだ。


「そうやって思っている事は構わないけど、その間に思い出にすがり続けて、どれくらいの時間を無駄にしてきたんだろうね。

 例えば再会出来たとしたって、付き合える見込みはあるの?

 向こうだって、澪ちゃんの事を思ってるかなんて解らないじゃない。

 もしかしたら、他に好きな人が…」


「やめてよ!」


明日香の言葉を遮るように、大きな声を出してしまった。

口を閉じた明日香は、そっと澪の顔を見つめる。


「あたしは…あたしだって、何度も諦めようとした!

 思い出をしまって、新しい道を歩かなきゃいけないって思った!

 でも、出来なかった…。

 貴女が言うように、付き合える見込みなんてないかもしれない。

 他に好きな人がいるかもしれない…それでも、あたしは…」


「ねえ、悲劇のヒロインを演じて楽しい?」


今度は澪の言葉を、明日香が遮る。


「悲劇のヒロインなんて演じてない!」


「十分演じてると思うけどな。

 周りもさぞかし大変だっただろうね。

 君がそんな状態じゃ、かなり気を遣ったんじゃないかな」


「あたしは…っ」


「可哀想な自分を見てほしかっただけなんじゃない?

 大切な人と別れてしまった、そんな自分に同情してほしかった?」


「いい加減にしてよ!

 あたしはあたしで、貴女には何も関係ないじゃない!

 あたしはただ、美咲が好きなだけで…あっ…」


勢いで出てきてしまった名前。

「元彼」の名前。


「ふうん、女の子と付き合ってたんだ?

 じゃあ、元彼と言うより元カノか」


しれっと言う明日香の顔を見る。

顔色を1つも変える事なく、淡々としていた。

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