第68話

空を見るのをやめ、少し俯いていると。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


顔を上げると、母親らしき人と手を繋いでいた女の子が、澪の事を見ていた。

どうやらこの子が声を掛けてくれたようだ。


「うん、大丈夫だよ」


にこりと微笑むと、女の子も同じく微笑む。


「お姉ちゃん、元気ないの?」


綺麗な瞳が澪の瞳を覗き込む。


「う~ん…そうかもしれない」


困った笑顔を浮かべている自分。

すると女の子は、繋いでいた手をほどくと、自身のスカートのポケットに手を入れ、何かを探し始めた。

その様子を見守っていると。


「これあげる!」


小さな掌に、可愛い包装がされた飴が。


「あたしが貰っちゃっていいの?」


「うん、お姉ちゃんにあげる」


小さな手が、澪の手に飴を渡す。


「飴を食べると元気になるんだよ。

 お姉ちゃんも飴を食べて、元気になってね」


女の子は再び母親と手を繋ぐと歩きだした。

母親が軽く会釈をしたので、澪も同じように会釈をした。

女の子は振り返り、澪に大きく手を振った。

澪も微笑みながら、女の子に手を振った。


掌の飴を見つめる。

小さな優しさに、心も綻ぶ。


元気になるにはどうしたらいいのだろう。

美味しいものを食べたり、綺麗な景色を見たり、ベッドでごろごろしたり。

やり方は色々ある。

自分にはどんな方法が適正だろう。


「お待たせ」


声がした方に目を向ければ、ペットボトルを2本持った明日香がいた。


手渡されたお茶のペットボトルを受け取ると、早速口をつけた。

冷たいお茶が喉を潤し、ほんのり心も落ち着く。


「無理させちゃったかな?

 ごめんね、気付かなくて」


澪の隣に腰掛け、お茶を飲む明日香に目をやる。


「無理してないから大丈夫」


「そう?

 前の彼氏の事でも考えた?」


図星。

返答に困っていると、察した明日香は苦笑いを浮かべた。


「ビンゴ。

 そっかあ、よっぽど好きだったんだね。

 こんなにも思われてる元彼が羨ましいな」


返事を考えてみるも、なかなか浮かばない。

無言のまま、お茶を飲むも味が解らなくなる。

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