第67話

大きく息を吐いた。

頭が少し疲れているのは、いろんな気持ちがぐるぐると駆け巡っているからだろう。



ねえ、美咲。

あたしはあれからずっと変わらず貴女が好きで、貴女の事ばかり考えているよ。

貴女はあたしの事、少しでもいいから想っていてくれてるのかな。



連絡する事はいくらでも出来た。

けれど、切っ掛けがなかった。

それは言い訳になるだろうか。


何度も電話をしようと思った。

綴ったメッセージを送信出来ず、何度も消した。

それらを繰り返す、自分が惨めだった。


バイト先に行けば、貴女に似ている人…美月さんがいて。

貴女に重ねて見てしまう事だってあって、泣きそうになる事だってある。


周りはいつも通りなのだ。

好きな人がいる、当たり前の生活。

自分は今、その当たり前の生活から離れている。

戻れる保証は、残念ながらない。


例えば今、目の前に貴女が現れたらどうなるのだろう。

抱き付くだろうか。

戸惑うだろうか。

泣きじゃくるだろうか。


ドラマのように、感動的な再会になるのだろうか。

…いや、そんな事はないように思える。


自分の知る貴女は、3年前から止まったまま。

どんな風に大人になっているのだろう。


ありさや梓は、きっと美咲と連絡を取っているのだろう。

特にありさは、美咲がイギリスに旅立つ前から心配していた。


2人ともあたしに気を遣って、殆ど美咲の名前を出さないし、話もしない。

けど、この前の飲み会の時に、久々に美咲の話で盛り上がって。


嬉しかった。

楽しかった。

あの頃が懐かしくて、愛しかった。


貴女以外、瞳に映らなかった。

貴女がいてくれれば、それだけで良かった。

ただ、それだけの事なのに。


また大きな溜め息をついた。

「溜め息をつくと幸せが逃げる」と聞くけど、自分はどれ程の幸せが逃げているのだろう。


ベンチの背もたれに持たれながら、空を見上げる。

空を見上げる癖がついたのは、貴女が空を好きだったからかもしれない。


あの頃、夕方に2人で買い物に行き、貴女の家に帰る途中、貴女が1番星を見つけて指を指した。

その星の輝きは、今でも覚えている。

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