第65話

「ここから少し歩いたところに、美味い蕎麦屋があるんだ。

 昼飯はそこで食おうよ」


手を繋いだまま、2人並んで歩く。

手を離さなきゃなのに、離せないでいるのは何故か。


「あ、ほら、あそこの桜、凄い綺麗だね。

 花の良さって解らなかったけど、歳をとってから解るようになっていったなあ」


明日香が指差す方を見てみると、大きくて綺麗な桜が咲いていた。

たくさんの人達が、桜の写真を撮っている。


「昼飯、自分が勝手に決めちゃったけど大丈夫だった?

 他に食いたいのがあれば言ってね」


「いえ、大丈夫です…」


自分に対し、とても気を遣ってくれているのが解る。

返って申し訳ないくらいだ。


「あの、そんなに気を遣わないでくれて大丈夫ですから」


「全然気なんて遣ってないよ。

 澪ちゃんももっと楽にしてくれていいんだからね。

 あ、まずは敬語をやめてみようか。

 自分の事も、さん付けしないで、呼び捨てで呼んでくれると嬉しいな」


知り合って間もない人間に、呼び捨てをするのも気が引ける。

が、本人が呼び捨てでと言うのならば、それに従うしかない。


「解り…解った。

 明日香って呼ばせてもらうね」


澪の言葉を聞いた明日香は、益々嬉しそうな顔になった。


「たくさん名前を呼んでくれたら嬉しいな。

 そんで、ちょっとずつでいいから、自分に慣れてくれたら嬉しい」


明日香のはにかんだ顔を見て、少しだけ胸がときめいた。

同時に、美咲に対して罪悪感が生まれた。


忘れていた気持ち。

誰かに恋をしたりするのは、遠い昔に置いてきた筈なのに。


「そういえば、お友達はどうしたの?」


「行きたいところがあるから、2人で行ってくるって。

 そこの限定スイーツを食べたいからって言ってた」


夏も優も、甘いものが好きだ。

学校の後に3人で話題のカフェに行き、よくスイーツを食べたりしている。

食べ過ぎて太らないか、心配なのもあるのだけれど。

それを優達に言ったら、「あんたは痩せすぎだからもっと食え!」と怒られたけど。

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