第61話

結局散々飲みまくり、ソファーで眠ってしまったようだ。

体を起こし、部屋の中を見てみたが美春の姿はなかった。


立ち上がり、テーブルに目をやると置き手紙が。


『当たって砕けたなら仙豆でも食って、また当たってきなさい。

 あたしはちょっと出掛けてきます。

 帰るなら戸締まりはしっかりと。

 いい報告を期待しています。

 (あたしの)未来の嫁を泣かせたりしたら覚悟しとけよ』


最後の一文に、一抹の恐怖を覚えるも、心にしっかりと刻んでおくとする。


美春が作っておいてくれた朝食を食べ終えると、シャワーを浴びて仕度を済ませた。

気持ちを落ち着かせる為に、何本目かの煙草に火をつける。


まずはどうやって澪と逢うかだ。

いきなり電話をするのは駄目だろうか。

家で待っていたら、返って驚かせてしまうだろうか。


戸締まりをして家を出る。

地元に戻ったものの、どうしたものかと考える。

冷静さを欠いているつもりはなかったのだが、どうやら大分冷静ではないようだ。


駅の近くにある、チェーン店の喫茶店に入り、コーヒーを飲む事にする。

ブラックの苦さを味わいながら、煙草を吸う。

煙を吐き出し、ぼんやりとした景色を見ていると、視界に1人の女性が入る。

女性と目が合う。

お互いに見つめ合う形となる。



「…美咲君?」



懐かしい声だった。



「お母様!」



美咲の言葉を聞いた香奈は、すぐに美咲の元へと駆け寄った。

美咲が椅子から立ち上がると、香奈は美咲を抱き締めた。

その場に居合わせた人の視線を気にする事もなく、2人は再会を喜んだ。


体を離すと、「ご一緒してよろしいかしら?」と香奈が言い、美咲は椅子を勧める。


「まさかこんなところで、美咲君と再会すると思わなかったわ。

 いつこっちに帰ってきたの?」


「2日前です。

 お母様は何故こちらに?」


「こっちで仕事の打ち合わせがあって、終わってコーヒーを飲もうと思ってたら、美咲君に似てる人がいて、追い掛けてきたの。

 こうしてまた貴女に逢えて嬉しいな。

 イケメンレベルもかなり上がったわね」


香奈は嬉しそうな笑顔を浮かべる。

美咲も笑顔を返す。

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