第59話

「女性が退社してしまい、逢う事もなくなったものの、連絡のやり取りはしていました。

 時間がある時は、遅くまで長電話を楽しんで。

 けれど、そんな日々も長くは続きませんでした。


 いつものようにメールのやり取りをしていましたが、途中から返信がこなくなったのです。

 忙しいのかなと思い、あまり気にせずに女の子はバイトに向かいます。

 店に着くと、同じバイト仲間の顔が曇っています。

 何かあったのかと思いながら、ロッカールームに向かおうとすると、店長に声を掛けられ、事務所に行きました。


 『さっき、彼女のご両親から連絡があったんだ。

 事故にあって、亡くなったって…』


 女の子は店長が何を言っているのか解りませんでした。

 さっきまでいつものようにメールのやり取りをしていたのに。

 何で店長はこんな酷い事を言うのだろうと。


 『横断歩道を渡っていたら、信号無視したトラックにはねられたそうだ。

 病院に運ばれたけど、打ち所が悪くて駄目だったって…』


 止まっていた思考が一気に動き出します。

 記憶が物凄い早さで女の子の頭の中を駆け巡ります。

 漸く話を理解した女の子は、その場に泣き崩れます。

 子供のように大声をあげて、泣き叫びました。

 その後の記憶がなくなる程に。


 お葬式に参加をする事も出来ず、お別れをする事も出来ませんでした。

 毎日女性の事を思い出しては、泣いてばかりの日々を過ごしていた頃、バイト先に年配の女性が訪ねてきました。

 その方は女性の母親でした。

 遺品整理をしていたら、ある女の子への手紙とプレゼントが見つかり、それを渡しに来たのだと。

 女の子の名前が書かれた手紙とプレゼントを受け取り、女の子はまた泣いてしまいます。


 帰宅し、手紙を読んでみると、『離れ離れになっても、変わらず好きだよ』と書いてありました。

 プレゼントの箱を開けてみると、中にはピアスが。

 最後の最期までずるい人だと、女の子はそれらを抱き締めて泣きました。


 月日がどんなに流れても、彼女への想いは色褪せる事はありません。

 女の子も大人になり、結婚をし、子供も出来ました。

 今でもたまにふと思い出すのです。

 あの日々は自分の人生の中で、1番素敵な時だったのだと。

 忘れられる事の出来ない、素敵な恋だったと…」

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