第58話

「女性の瞳が驚きの色に変わりました。

 『気付いた時には、自分の気持ちが恋愛のそれだという事に気付いて。抱いてはいけない気持ちだったのかもしれません。でも、気持ちを止める事は出来ませんでした。貴女が好きで好きでたまらないんです』


 女性は女の子の話を黙って聞いていました。

 女の子は自分の気持ちを打ち明けて良かったのか、言ってから気付きましたが、もう取り返しはつかない。

 女性の言葉を待つしかありません。


 『…ありがとう』とても優しい声でした。

 女性は静かに泣いていました。

 『その言葉を聞けただけで、あたしは幸せだから』

 涙に濡れた笑顔すら綺麗で、自分だけの宝物にしたいくらいでした。


 こうして女の子の儚い初めての恋は、終わりを迎える事になります。

 その日から暫く経ったある日、女性が仕事を退社する日を知ります。

 女の子は『最後に何か1つ思い出が欲しい』と思い、女性に何処かに遊びに行かないかと話しました。

 女性はその提案にのってくれて、2人で遊園地に行く事になったのです。

 女性は『最初で最後のデートだね』と、寂しそうに笑いました。


 デートの当日。

 待ち合わせの場所に行くと、女性はそれまで長かった髪をばっさりと切り、ボーイッシュな出で立ちで女の子を待っていました。

 『気分転換だよ』女性はそう言っていましたが、女の子には意図が解りませんでした。


 手を繋ぎ、いろんなアトラクションを楽しみ、言葉通り夢のような一時を過ごしました。

 楽しい時間はあっという間で、お別れの時間が近付きます。

 空に打ち上がる花火を見つめる事しか出来ずにいる女の子に、女性が『こっちを向いて?』と声を掛けます。

 泣きそうになるのをこらえながら女性の方を向くと、次の花火が打ち上がるよりも早く、キスをされました。

 『あたしはずるいね…』言いながら、強く抱き締められました。


 涙が女性の服を濡らしていきます。

 『どうしてこのまま時間が止まってくれないのか』

 『この時間がいつまでも続けばいいのに』

 しかし、女の子の願いは叶う事はありませんでした」

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