第57話

「夜の公園は静かでした。

 時折、遠くの方で、電車の走る音が聞こえてきます。

 2人でベンチに腰掛けると、また暫しの沈黙が訪れます。

 黙ったままの女性の顔を、不安げに見つめていると、それに気付いた女性は優しく女の子に微笑みかけました。

 女の子はその微笑みに胸が高鳴り、気持ちを抑えるのに必死でした。


 『あたしね…結婚する事になったの』

 突然の言葉に、女の子は驚きと悲しみが同時に込み上げてきました。

 急に心に寂しい風が吹きます。

 どんな言葉を言うべきか、全く解りませんでした。

 戸惑いを感じ、言葉を発する事が出来ずにいると、女性が女の子の頭を優しく撫でます。

 初めて触れられた事に、胸は更に高鳴ります。


 『あたしね、好きな人がいるの。いつも一生懸命頑張っていて、可愛くて、なつっこくて。その子の笑った顔が大好きなの』

 女の子は再び複雑な気持ちを抱き締めます。

 そうか、好きな人がいたのかと。

 その人と結婚するんだと。


 『その人とは結婚出来ないの…。仕方がない事だと頭では解っていたけど、気持ちを止める事は出来なくて…。結婚する人は男の人。あたしが結婚したい人は…女の子…』

 ズキンと胸が痛みますが、女の子はなんと声をかけていいのか解りません。


 女性の手が、女の子の手を優しく包みます。

 『あたしね、貴女の事がずっと好きだったの。言わないつもりでいたんだけど、言わないでいる方が辛いから…』

 いきなりの告白に、女の子の頭の中はパニックになってしまいます。

 『貴女がいたから、あたしは頑張れたんだよ。貴女がいなかったら、あたしはすぐに仕事を辞めてたと思う』

 女性の温かな瞳が、女の子の瞳を見つめます。

 女の子は照れくささが込み上げてきて、目を反らしてしまいます」


春の天気のように、美春の表情が変わる。

恋する乙女のような表情になる。


「『女から告白なんてありえないよね。ごめんね、忘れて…』

 女性は目を潤ませながら笑います。

 そんな女性を見て、女の子もいよいよ気持ちを制御出来なくなります。

 『あたしも…ずっと貴女が…好きでした…』」

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