第54話

そうだ、自分は何も知らない。


「澪ちゃんの事を放っておけないから、たまにうちに呼んだりもして。

 あたしの前でも、気丈に振る舞って。

 見守る事しか出来ないのが辛かった…」


胸の痛みが、少しずつ体全体に伝わっていく。


「暫く経ってからだったかな。

 『無理に美咲の事を待ってなくていいのよ?』って言ったら、あの子は笑って『待っていたいんです』って答えて…。

 ねえ、あんたに澪ちゃんの気持ちが解る?」


言葉がただただ刺さっていく。


「あんたを責めたい訳じゃない。

 ただ、あんたは澪ちゃんの辛さを知らなきゃいけないと思う。

 いや、知るべきだわ。

 ありさや梓ちゃん、美月達が支えてくれてはいたけど、結局はあんたがいなきゃあの子は駄目なんだから…」


月日の流れが、痛みとなって刺さっていく。


「あんたは何の為に日本に帰ってきたの?

 澪ちゃんの声を聞いて、衝動的に帰って来ただけなの?

 ちゃんと目的があって、こっちに戻ってきたのよね?」


「…もう1度、澪とやり直したくて」


「生半可な気持ちで戻ってきたなら、今すぐイギリスに帰りなさい。

 中途半端な覚悟や気持ちで澪ちゃんの前に現れても、澪ちゃんを傷付けるだけよ。

 そんなの、あたしは許さない」


先程から、美春の目を見れずにいる。


「ドラマや映画のように、上手くいく保証なんてないんだから。

 どんなに気持ちや想いがあったって、届かない事も叶わない事もある…」


解っている。

そんなに上手くいくなんて、これっぽっちも思ってはいない。


「あんたに…澪ちゃんの未来に寄り添う覚悟はあるの?

 あの子を大切にする気持ちはある?

 まだ悩んだり、躊躇いを感じてるなら、今すぐやめなさい」


テレビはついている筈なのに、それさえも聞こえないのは何故だろう。


「…あんたももう子供じゃないんだから、考えなしに行動をするような子じゃないは解ってる。

 それでも、不安は拭いきれない…」


それは自分も同じだった。

言い返す言葉もない。

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