第52話

美春が風呂から出てくると、美咲も風呂に入る事にした。

ありさの家の風呂よりも広く、ゆったりと浸かる事が出来る。


イギリスの時とは違う、のんびりとした時間。

仕事が忙しい時は、仕事の事だけを考えていれば良かった。

今は澪の事や、今後の事を考える時間が増えている。


焦って色々考えてみても、いい答えや考えられるとは限らない。

それは解っている。

自分でも、どうしてこんなに焦っているのか、解らないでいた。


風呂から出ると、美春は美咲が作った料理を皿に移し変え、テーブルに並べていた。


「さっぱりしてきた?」


「うん、してきた。

 やっぱり風呂はいいなあ」


「ババアくさい事を言ってんじゃないわよう。

 ほらほら、早く飲みたいんだから、あんたも仕度しなさいな」


美春に促され、髪をドライヤーで乾かし、居間に戻ると美春が缶ビールを持って来てくれたので受け取る。

漸く美春も椅子に座ると、お互いにプルトップを開けた。


「今日も美味しいお酒様に感謝を込めて、乾杯!」


「おお~いっ、そこは『娘が無事に帰国した事に乾杯!』じゃないんか!?」


「お黙りっ!

 ぷっへえっ、ビール最高さあゆこう!」


「随分とご機嫌なテンションだなあ、おいぃっ!?」


ツッコミを入れすぎて、喉がからからになった美咲も、遅れてビールを喉に流し込んだ。

冷たいビールが喉から流れていき、冷たさが胃に到着する。


「早速だけど、イギリスはどうだった?

 アビー・ロードには行ったの?」


「観光はあんまりしてないんだよなあ。

 休みの日は、疲れて寝てたし。

 向こうで出来た友達と、たまに街に繰り出したり、デカい公園には行ったりしたけどさ」


脳裏にちらりと紗也の事が浮かぶも、頭を振って消した。


「英語なんて喋れないなんて言ってたけど、なんやかんや覚えられたんでしょ?」


「覚えられたというか、覚えざるを得ないというか。

 それとなくは喋れるようにはなったんじゃないかな」


「ふ~ん?

 じゃあ、澪ちゃんには英語で結婚を申し込むの?

 それとも日本語?」


まさに今口に入れたビールを、盛大に吹き出す。


「なっ、何言ってんだよ!?」


「何動揺してんのよ」

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