第51話

夕方近くに、美春が買い物から帰って来た。

あらかた予想はしていたが、やっぱり大量に酒を買い込んできた。

食材の量が少ないのは、火を見るより明らかである。


「今夜は松山千◯もびっくりするくらい長い夜になるわよ!

 そんな夜に必要なのはアルコールだわね!

 よっしゃセバス、アルコール様のお供になる肴を作るがいいわ!」


「ちょ、解っちゃいたけど、やっぱり私が作るんか!?」


「あったり前でしょ!

 折角イギリスにまで行って、精神と時の◯屋で修行してきたんだから、その修行の成果を親に見せるのは、至極当たり前の事よ!

 という訳で、早速取り掛かってちょうだいね。

 あたしは冷蔵庫にアルコール様をしまったら、お風呂の準備をしなくちゃ。

 じゃあ、よろしく!」


「うおいっ、ちったあ私に優しくしなさいっての!」


「お黙り!

 年上の(美人)レディの言う事には絶対服従!

 これはメソポタミア文明の頃から決まってるんだから!」


「随分遡ったな、おぃいいいいっ!

 くっそ、解ったよ!」


このままでは埒があかない。

毎度の事ではあるが、折れなきゃいけないのは自分の方だ。

白旗をあげた美咲を見ると、美春は満足そうに微笑んだ。


押しに弱いのは、紛れもなく美春のせいだろう。

そうだ、物心ついた時から押しに弱かった。

…いや、単に美春に勝てないだけかもしれない。

考えると虚しくなるので、思考のスイッチを1つきる事にした。


美春が冷蔵庫に酒をしまい終わるのを待ってから、冷蔵庫にあるものを確認してみる。

これだけ材料があるなら、そこそこに品数もいくだろう。

2人でいただくには十分だ。

残ったなら、明日食べればいい。


なんやかんや不服を訴えながらも、冷蔵庫から材料を取り出し、手を洗って料理の下準備に取り掛かる。

何かをしていれば、気持ちは紛れるし。

今は他の事まで考える必要はないよな。

そう自分に言い聞かせてみる。


風呂の準備を済ませた美春は、居間でテレビを見始めた。

ニュースを読み上げるアナウンサーの声が聞こえる。

なんて事のない時間が、ゆっくりと流れていった。

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