第50話

眠ってしまったようだ。

いつかの君との会話を思い出す。

それを夢にまで見てしまうのだから、自分もいよいよ末期ではないか。

ポジティブに考えれば、それだけ澪の事が大切で、それだけ澪の事が愛しいという事。


つくづく自分は女々しいと思う。

何処がどうと突っ込まれると、上手く答えられる自信はないのだけど。

澪の事になると、途端に女々しくなるというか。


体を起こし、煙草を持ち、ベランダの窓を開けて出てみる。

陽が少し落ち始めている。

あの日と同じ、茜色の空が広がっていて、白い雲が静かに風に身を任せているようだ。


ねえ、澪。

私は澪に対して、どれくらいの愛情を伝えられたのだろう。

今もそう、この心は澪を想う事を止めようとはせず、緩やかなメロディーのように、澪への想いを奏でたがっているよ。


逢いたいよ。

逢いたい。


けど、逢いたいと思っているのが、自分だけだったら…。

そんなネガティブな事が、時折ちらついてしまうのは、きっと自分に自信を持てないからかもしれない。


澪は私の事を強いと言っていたけど、強いふりをしていただけかもしれない。

そんな私に幻滅する?


もっと弱い自分を見せれば良かった。

見てくればかり気にしてしまって、いつからか本当の自分を隠していたのかもしれない。

澪はいつだって、強いところも弱いところも見せてくれたのに。


煙草に火をつける。

吐き出す煙に、溜め息を混ぜてみる。

果たしてそんな事に、何の意味があるのかなんて解らないけど…。


何処にいたって空は繋がっている。

澪もこの空の下にいるんだよね。

ねえ、どんな顔をしてるんかな。

ちゃんと笑えてる?


澪の笑顔を見たい。

名前を呼ばれたい。

強く抱き締めたい。


悲しいくらいに、こんなにも澪の事を思っている自分がいる。

ああ、そうか。

こういうところが女々しいんだろうな。


この3年間の間に、自分はどれだけ変わる事が出来たのだろう。

変われたのかさえ、怪しいところではあるけれど。


自分の知らない澪を知るのは、些か怖くもある。

澪を遮断した3年間は、長いのか短いのか。

深いのか、浅いのか。


考えれば考える程、時間の経過を実感するよ…。

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