第46話

着替えて仕度を済ませ、ありさの家を出た。

ありさが駅まで送ろうかと言ってくれたが、歩きたい気分だったから断った。


陽射しが心地いい。

気分も晴れやかになる。


まだ日本に帰って来た実感はなかったものの、見慣れた景色を見ながら歩いていると、少しずつ実感が沸いてきた。

ほんの少し前までは、イギリスにいたのに。

向こうはまだ夜だろうか。


平日の昼間だからか、電車内はがらりとしていた。

席に着くと、窓の外の景色を眺める事にした。

あの頃と変わらない景色が流れていく。


そうだ、君と一緒に行った以来、母上様の家には行ってなかったんだ。

ふと思い出す、あの頃の日々。


あの日は母上様がフィーバーしちゃって、君にいろんなコスプレをさせて。

夜中までずっと騒いだな。

いろんな君を見れて嬉しかった。


懐かしさと、寂しさが込み上げてくる。

今、自分の隣に君はいない。

手を繋いでくれた君はいなくて。

言葉に出来ないような気持ちが、いつまでも溢れてきそうで。


電車を降りて、駅を出る。

バスに乗って、目的地を目指す。

バスに乗るのも久し振りだ。


目的の停留所に着き、バスを降りて美春が住むマンションに向かって歩き出した。

父はいるだろうか。

いや、多忙な人だからいないだろうな。

最後に逢ったのはいつだっただろう。


マンションに着き、部屋のインターホンを鳴らすと、少ししてからドアが開いた。


「あらっ!

 あらあらあらっ!

 いつ戻ってきたの?」


「母上様、ちゃんとインターホンで誰かを確認してから、ドアを開けないと危ないと思うんだが。

 インターホンの意味がなくなってしまう…」


「な~にぶちくさ言ってんのよ!

 とにかく早く家の中に入りなさいって!

 今丁度『あの花』を見直してたところなのん!」


『あの花』とは、『あの日見た花の名前を◯達はまだ知らない』の略語である。


「さあさあっ、一緒に最終回のくっそ泣けるシーンを見ましょ!

 そんで、一緒に叫ぶのよ。

 『も~うい~いか~いっ!』ってね!」


「何でよりによって最終回見てんのさ!

 号泣確定じゃんか!」

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