第43話

「じゃあ、ご馳走さまでした」


会計を済ませ、店を出る。


「大したもてなしが出来なくてごめんね~。

 いつまでこっちにいるの?」


「明後日には帰ります」


「そっか~。

 じゃあ、帰る前にまた逢いたいね」


相変わらず笑顔を崩さず接してくれる明日香に、優はすっかり好印象のようだった。

夏は明日香に興味がないようで、眠いのか欠伸を1つ。


「ほんじゃ、気を付けて帰ってね~」


ひらひらと手を振りながら、3人を見送る明日香に優は同じように手を振り、澪と夏は軽く頭を下げた。


「女子であんなにイケメンって素敵すぎない?

 男としか付き合った事ないけど、明日香さんとなら付き合いたい」


「優はチャラそうな奴が好きなん?」


「チャラくても、ちゃんとあたしを好きでいてくれればいいの~」


そんな会話を聞いていると。


「澪ちゃん!」


声がした方を振り返れば、明日香が走ってこちらに向かっていた。


「ごめん、これ忘れもん」


息を切らしながら、澪にタオルを手渡す。


「澪ちゃんの席に落ちてたからさ」


「あ、それうちのだ」


夏が澪の手からタオルを受け取る。


「わざわざありがとうございます。

 じゃあ…」


体を前へ向けようとした澪の右手首を掴まれた。

慌てて振り返る。


「これ、自分のLI◯EのID。

 良かったらメッセちょうだい。

 じゃあ、おやすみ」


小さな紙を澪に渡すと、手を振って店の方へ戻っていった。

明日香の背中を見送り、改めて受け取った紙を見てみる。


「な~んか、明日香って人は澪が気になるご様子だったね」


「澪、連絡してみなよ!

 明日香さんならイケメンだし、色々リードしてくれそうじゃん!」


そんな事を言われても。

誰かと付き合う気はない。

少なくとも、貴女以外の人とは…。


「と、とにかく早く部屋に戻ろうよ」


その場をやり過ごし、ホテルへと戻る。

歩きながら思い出していたのは、明日香から香ったシトラスの香り。

切なさが胸を締め付ける。


部屋に着き、一段落していると。


「ね~ね~、試しにメッセしてみなよ~」


寝間着に着替えた優が、澪の顔を伺う。


「新しい出逢いかもしれないじゃない。

 とりあえず、『ご馳走さまでした。ありがとうございました』くらいは送ってみたら?」


確かに、お礼のメッセは送らないとか…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る