第41話

飲み始めてから暫くして。


「ね~、澪は何で未だに彼氏作らないの?」


頼んだ枝豆を食べながら、夏が澪に問い掛ける。


「前から言ってるでしょ~、作る気にならないの」


「でもさ~、もう3年くらいいないんでしょ?

 そろそろ人肌が恋しくなったりしない?」


「確かに寂しい時はあるけどね。

 けど、寂しいから誰かといたい訳じゃないから」


『寂しいから一緒にいたいんじゃない。

 好きだから一緒にいたい』


甦った言葉。

そう、好きだから一緒にいたいんだ。


「前に付き合ってた人って、そんなに最高な人だったの?」


電子タバコの煙を吐きながら、口を挟んでみる優。


「…そうだね、あたしには勿体無いくらい、最高で素敵な王子様だったから」


その言葉に嘘も偽りもない。

貴女があたしの隣で微笑んでくれてた事は、大袈裟かもしれないけど奇跡に近かったから。


「どんな感じの人だったの?」


珍しく夏が聞き込んでくる。

興味を持ったのだろうか。


「背が高くて、笑った顔が可愛くて、格好良くて…。

 ピンチの時は必ず助けてくれて。

 たまに子供っぽくて、甘えたで…。

 愛情を真っ直ぐに注いでくれる人」


言いながら、思い出が次々と甦るから。

貴女と初めて手を繋いだ事。

貴女が初めて抱き締めてくれた事。

貴女が初めてキスをしてくれた事。

どんなに時間が流れても、昨日の事のように思い出せる。


「そんな完璧な人いるの!?

 女子の憧れやら何やらを、全て詰め込まれたような感じじゃん!?」


飲んでいたグラスを置き、驚きを隠しきれない表情になる夏。


「本当に完璧な人だったなあ…。

 料理も上手くて、よく作ってもらったり。

 休みの日はバイクで出掛けたり、電車で出掛けたりとか。

 あたしの事を凄く大事にしてくれて…」


そこで言葉を区切る。

涙が零れ落ちそうになるのを、必死に抑える。


「いやはや、王子様って本当にいるんだね。

 別れちゃうなんて勿体無さすぎでしょ~。

 何で別れちゃったの?」


ズキンと痛む胸。

あの日告げられた言葉と、あの日突き付けてしまった言葉。

ねえ、貴女の傷の痛みは、今もまだ続いてる?

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