第40話

引き戸を横に動かすと、威勢のいい声が響く。

店内は賑わっていて、皆楽しそうに酒を飲み交わしてしている。


「いらっしゃ~せっ!

 って、昼間の子」


厨房から顔を覗かせた人物。

昼間にぶつかった人だ。


「まじで来てくれたんだね。

 そこの奥のテーブルに座って。

 今おしぼり持ってくからさ」


ジーパンに店のTシャツを着ていて、頭には捻りはちまき。

店内は混んでいるものの、1つ1つ丁寧にこなしていっている。


「改めていらっしゃい。

 お飲み物は何になさいますか?」


「あたしは生を」


美咲と別れてから、ビールも飲めるようになった。

最初はビールにパイナップルジュースを少し入れたり、桃のジュースを入れたりすると飲みやすい、というのを耳に挟んだので、それで少しずつ慣れていった。


「あたしはハイボール」


「うちはレモンサワー」


「かしこまり。

 では、少々お待ち下さい!」


なつっこい笑顔を絶やさないな。

接客向きの人なのかもしれない。

美咲だったら、あそこまでにこにこしながら接客しないだろうな。


また美咲の事を考えていた。

今日は特に考えている気がする。

確かに日常生活の中で、ふとした時に思い出す事はあるけど、ここまで考えるのは珍しいと思った。


「お腹いっぱいだから、あんまり食べれないね」


「あんなに食べたのに、まだ食べる気でいたの!?」


優と夏の会話を聞きつつ、携帯の画面を開いてみると、ありさから「旅行はどうだね?楽しんでる?」とメッセージが届いていた。


『うん、楽しんでるよ。昼間に食べたラーメンが、凄く美味しかったんだ』


当たり障りのない返事を送ってみた。

そして、携帯の画面を閉じる。


「お待たせしました!

 生とハイボールとレモンサワーです!

 これは自分からのサービス。

 良かったら食べて」


そう言って、刺身が盛られた皿がテーブルに置かれた。


「夕飯の後でしょ?

 こんくらいなら食えるかと思ってさ。

 んじゃ、ごゆっくり~♪」


然り気無い気配りが上手な人だ。

下手な理由を付けないところもいいと思った。


「さっしみ~!

 食べよ~」


夏が嬉しそうに割り箸を取ると、醤油も付けずに一切れ頬張った。

そんな夏を見て、澪と優は笑った。

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