第25話

それまでの表情が一変する。

澪がいない…?


「え?

 いない?

 どういう事?」


言葉の意味が解らない美咲は、狼狽えてしまう。


「いや、言葉通りなんだが…」


ありさも気まずそうな表情になる。

梓は何も言わずに、そっと顔を背けた。


「じゃあ…澪には会えないって事…?」


カラカラに渇いた喉から、やっとの思いで言葉を絞り出す。

美咲の問い掛けに答えない2人を見て、美咲の顔色はじょじょに青ざめていく。


折角澪に逢いに来たのに。

折角澪を想いを告げに来たのに。

会えずじまいなんて、そんな悲しい事を望んでいた訳じゃないのに。


言葉も出ないまま、部屋は沈黙に包まれ、重い空気が漂う。

誰も口を開かず、テレビの音だけが鳴り響いていたが。



「まあ、明後日にはこっちに帰ってくんだけどな~」



沈黙をぶち壊したのはありさの一言だった。

その言葉を聞いた美咲は、今度は驚きの表情に変わる。


「あ、明後日ってどゆ事だよ!?」


ついつい声が大きくなってしまう。

もう何が何だか解らない。


「澪は2泊3日の九州旅行に行っておられます」


しれっとした顔でおっしゃる梓を、慌てて見る美咲。

あれ?さっきまで切なげな顔をしてなかったっけ!?


「え?えっ?」


「いえ~あっ、うちらの名演技に引っ掛かったわあっ!」


美咲の戸惑いをよそに、ありさと梓はハイタッチを交わす。


「澪ちゃまは今日から旅行に行ってんよ。

 ゴールデンウィーク中バイトがどちゃくそ忙しくて休めなかったから、落ち着いた今に連休を貰えたから、大学の友達と博多に行ったのだ」


「んなっ、なんだよ、最初からそう言いなさいよ!」


「なんでおネエ口調なんだよ」


耐えきれず笑い出すありさに、悔しくなった美咲はありさの頭にチョップを一撃。


「あ~も~、すげ~焦っちゃったじゃんか!

 寿命がどえらい縮んだわ!」


「ごめんね、美咲。

 僕はやめようって言ったんだけど、ありさに言われて仕方なく合わせたんだ」


「うおいっ、まさかの梓の裏切り!?」


「そうか、全部このどあほうが悪かったんだな。

 素直に言ってくれてありがとう。

 梓だけは、梓だけは許すよ」


「ちょっ、あたし悪者!?」

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